本年はホシザメ、ツマリツノザメ、およびオオジロザメの3種について、形態学的、生態学的、遺伝学的な手法を用いて系群解析を試みた。ホシザメについては、八戸近海、東京湾、銚子沖合、若狭湾、下関近海、日向灘、および台湾の基隆近海から標本を集めて系群の解析を行った。形態解析では、脊椎骨数のうち、尾鰭前脊椎骨数に海域間で違いが認められ、特に基隆産や八戸産は平均値はもとよりモードの位置も異なり、他の海域のものとは異なった系群であることが示唆された。原鰭と尾鰭間の距離についても八戸産と下関産の標本とに違いが認められた。生態的には、成熟体長や交尾期にも海域産で顕著な違いがみられ、特に八戸産はほかの海域のものと大きく異なっていた。3種の寄生虫による寄生率を海域間で比較したところ、それぞれ特異な寄生率がみられ、クラスター分析による解析では、八戸産と銚子産さらに東京湾産の標本が近い関係にある一方、台湾産、下関産、日向灘産および舞鶴産が近い関係にあり、東日本系と西日本系の2つに大別されることが判明した。ミトコンドリアDNAを用いての海域間の遺伝的特性を検討したが、現在までのところ変異を検出できなかった。ツマリツノザメについては、日本近海、オセアニア、地中海および南アフリカから標本を厚め、形態および遺伝の両面から系群の解析を試みた。その結果、従来同種と考えられていた地中海産と南アフリカ産は、明らかに日本産やオセアニア産とは異なる形態を有するため別種とするのが妥当であるとの結論に達した。また、日本近海産とオセアニア産との間にはオーバーラップはあるものの、95%の個体は識別可能であるため、一応亜種として区別することにした。遺伝学的にもこれらは区別可能であった。オオメジロザメではミトコンドリアDNAのDグループを用いて、太平洋産、大西洋産およびオーストラリア産との間に系群の違いが認められた。
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