坐りと戻りはかまぼこの様な魚肉の加熱ゲル形成時に付随して起こるゲル形成の促進とゲルの脆弱化現象であるが、それらの機構は充分に解明されていない。良く坐るスケトウダラと全く坐りを起こさないサケの肉糊を用いて、それらのゲル形成に及ぼす加熱温度、塩濃度、塩の種類の影響を比較し、さらに内在するタンパク質架橋酵素(TGase)およびプロテアーゼの作用を比較検討した結果からすわりの機構について以下の結論が得られた。肉糊中のミオシンはその加熱ゲル形成に先立つ低温加温により秩序ある変性凝集を受けると同時に内因性TGaseによって分枝構造を有するミオシン多量体が形成される。次にこれを加熱するこの多量体を枠組みとしてミオシン加熱ゲルの網目構造が完成する。この場合TGaseによるミオシン架橋多量体が形成されていないと、弱い加熱ゲルは形成されても坐りの効果は得られない。サケの場合は内因性TGaseの活性レベルが著しく低いことが坐りを起こさない主因であるが、肉中に多量に存在するアンセリンがTGase阻害剤として作用することも明らかになった。サケではアンセリンを除去し外部からTGaseを添加すると坐りを導入することができた。一方戻りは内糊にプロテアーゼ阻害剤とTGase阻害剤を添加する実験から、坐り中にもプロテアーゼが作用し、戻りの一因となっていることを初めて明確に証明した。高温(50℃〜60℃)での火戻りもサケではシステインプロテアーゼ阻害剤の添加で効果的に抑制された。これらの結果から、戻りにはミオシン分解が加熱ゲル化に先行する場合と、ゲル形成後にミオシンが分解される2つの機構があり、後者が典型的な戻り現象となることを示した。
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