魚類ミオシンは畜肉のそれに比べて著しく不安定であるが、その性状が魚肉の貯蔵・加工に際して大きな問題になっている。著者らは最近、温度馴化したコイでは異なったミオシン・アイソフォームが発現し、ATPase活性や、この活性を指標とする熱安定性を変化させることを見いだした。本研究はこのような背景の下、著者らが従来から進めてきたコイ普通筋ミオシン・アイソフォームの生化学的研究に、分子生物学的手法を取り入れて、一次構造のレベルから魚類ミオシンの特異性を探ることを目的として行われた。 コイ普通筋ミオシン重鎖をコードするDNAプローブを用いて、10および30℃馴化コイの普通筋から構築したcDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、3種類のクローンを単離することができた。各クローンの全塩基配列を解析し、その演繹アミノ酸配列をL-メロミオシン(LMM)のN末端アミノ酸配列と比較して、10および30℃馴化コイのタイプを同定した。3つ目のクローンは、塩基配列および演繹アミノ酸配列での、前述の10および30℃馴化タイプの中間的な性質を示すものであった。次に、3側の約200bpをプローブとし、10、20および30℃馴化コイから調製した全RNAを対象にノーザンブロット解析を行った。その結果、10および30℃タイプのmRNAはそれぞれ、10および30℃馴化コイに最も多く検出された。一方、中間タイプのmRNAはいずれの馴化魚にも普遍的に存在した。 次に、各タイプ間のLMM全アミノ酸配列の相同性は95%以上であった。これら配列を熱安定性が高いとされる高等脊椎動物由来のそれと比較したところ、3つのコイLMMアイソフォームのうち、30℃タイプの配列が最も高い相同性を示した。したがって、コイは高音馴化に伴って、熱安定性の高いミオシン重鎖アイソフォームを発現することが示唆された。
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