研究概要 |
本研究では,卵巣摘除後エストラジオールの皮下インプラント処置により性ステロイドホルモン環境を一定に維持した雌シバヤギを供試し,まず弓状核・正中隆起部を中心とする視床下部内側底部に脳定位的に記録電極を留置した。覚醒・半拘束状態の動物で,GnRHパルス駆動機構の活動状態を多ニューロン発射活動(MUA)として持続的にリアルタイム解析しうるシステムを開発し,被検材料のフェロモン活性をMUAの特異的上昇(MUAボレ-)に与える影響を指標として評価した。本年度は,従来の短時間呈示(5分以下)に加えて、被検材料を動物の鼻先に装着したマスクに入れることで数時間にわたって匂いを呈示を行う方法を用いて,フェロモンの長時間持続呈示の影響についても検討した。雄被毛の匂いを4時間持続呈示することによりGnRHパルス駆動機構は刺激され,パルス頻度の上昇が呈示期間を通じて観察された。興味深いことに,この持続呈示により一種に不応状態が惹起され,その後は数日間にわたり短時間呈示の効果が消失することが明らかとなった。またフェロモンの産生部位と推察される雄の体表部位より皮膚組織を部分採材し,雄と去勢雄で比較したところ,上記の生物検定系によるフェロモン活性の差に対応するように,皮脂腺の発達程度に大きな差違が認められた。この雄皮膚組織のエーテル抽出物を呈示することによりMUAボレ-が誘起され明瞭なプライマーフェロモン活性の存在が確認された。脂肪染色により本研究の過程で従来よりフェロモン活性を持つこと判明している雄の被毛には,おそらく皮脂腺に由来すると思われる脂質成分の付着が明らかに認められ,一方フェロモン活性のない去勢雄の毛には認められなかった。このことから,皮脂腺でアンドロジェン依存性に産生される脂質成分中にフェロモン活性の本体が含まれていることが示唆され,今後さらにフェロモン分子の単離精製を進めていく上で極めて有用と考えられる情報を得ることができた。
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