豚卵子の体外成熟条件と受精能との関係に関して下記のような実験を行った。 1.第一成熟分裂途上の未熟卵子への体外における精子侵入能の変化と細胞質内に侵入した精子核の変化について調べた。血清とカフェインを添加した受精培地(TCM-199B)を用いて、裸化未熟卵子を凍結融解精子とともにあるいは精子を添加することなく8時間培養し、その後ホルモン類を添加した成熟培地で48時間追加培養した。その結果、精子とともに培養したほとんど(86-99%)の卵子において精子侵入が認められた。また、追加培養の24時間後には、一旦膨化した精子核が再濃縮するか中期像染色体を形成した卵子がそれぞれ47%および33%認められた。精子の中期像染色体を有する卵子の割合は、追加培養の36-48時間後に卵子が第一成熟分裂後期から第二成熟分裂中期に至るにしたがってさらに増加した(51-65%)。これらの結果から、第一成熟分裂途上の未熟卵子の細胞質は、精子の中期像染色体を形成する強い活性を有することが示唆された。 2.前年度の実験の継続として、システインとシスチンの豚卵子による利用性と卵丘細胞との関連性について調べた。卵丘細胞付着卵子を48時間培養した結果、細胞質のグルタチオン(GSH)濃度と体外受精後の雄性前核(MPN)形成率は、いずれもシステインあるいはシスチンの無添加よりも添加条件下で成熟した卵子において高かった。一方、システインの存在下で成熟した卵子では、卵丘細胞の付着の有無にかかわらず、MPN形成率は高かったが、シスチンでは、卵丘細胞付着卵子においてのみMPN形成率は促進された。これらの結果から、豚卵子によるシステインあるいはシスチンの利用性は、卵丘細胞の有無により異なることが示唆された。
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