研究概要 |
マスト細胞は,即時型アレルギー反応を基盤として発症する疾病(花粉症,蕁麻疹,アトピー性皮膚炎など)の病態発現過程だけでなく,炎症および組織修復反応においても,重要なエフェクター細胞として機能する。本研究は,NGFによるマスト細胞活性化機構の詳細を明らかにしようとするもので,マスト細胞表面にあるNGFレセプターの発現と存在証明,NGFによるマスト細胞の活性化誘導とその細胞内シグナルの解析,マスト細胞欠損マウスと培養マスト細胞を駆使したin vivo実験系における,NGFによるマスト細胞の刺激評価,により構成される。本年度得られた新知見は以下の如くである。 1)NGFは,血小板由来フォスファチジルセリン存在下で,マスト細胞およびマスト細胞株を刺激し,セロトニンの放出を誘導することが判明した。同時に,様々な炎症性サイトカインを産生することが,遺伝子レベルおよび蛋白レベルで明らかとなった。 2)我々はすでにNGFがラット腹腔マスト細胞のアポトーシスを抑制することを発見しているが,そのシグナル伝達機構として,NGFがアポトーシス抑制遺伝子であるbcl-2遺伝子の発現と蛋白合成を誘導することが明らかとなった。また,トランスフォーム成長因子によるアポトーシス誘導をNGFが抑制する活性を有することを見いだした。 3)培養マスト細胞を局所投与し,マスト細胞欠損症を治癒したマスト細胞欠損突然変異マウスに,NGFを注射したところ,マスト細胞の活性化は認められなかったが,活性化血小板と同時に投与すると,明らかなマスト細胞の活性化に起因する炎症反応が惹起された。 以上の結果より,NGFがマスト細胞の生存維持とその活性化を制御する機能を有することが判明した。
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