研究概要 |
この研究はミルクに含まれる生理活性物質の新生子消化管上皮細胞からの取り込み動態及び腸管バリアーの制御機構の成果を基礎として、未成熟な新生子の脳の発育に対するミルク由来生理活性物質の役割を解析することを目的とした。 1.新生子期において血中に移行したミルク由来タンパク質成分が脳の発達制御機構にどの程度寄与しているか、明確に実証した報告はない。そこで、出生直後のブタ新生子を用いて、ウシ初乳の経口投与によるミルク成分の血清及び脳脊髄液への移行動態を各種電気泳動法及びELISA法によって検索を進めた。その結果、ブタでは新生子期において、初乳中のタンパク質成分の内、分子量約19,000〜31,000の二つのタンパク質成分が血液を介して脳脊髄液中に移行すること及び分子量19,000の成分はβ-lactoglobulinであることが明らかとなった。 2.記憶学習機能の向上作用が注目されているドコサヘキサエン酸(DHA)が発育、成長期の脳内情報伝達及び代謝系に対してどのような作用をもっているのかを明らかにするため、脳波、視覚誘発電位及び脳内カテコールアミン量を測定して解析を進めた。その結果、DHAは脳の興奮性を高め、カテコールアミン合成も促進させる効果が明らかとなった。この効果は海馬において顕著であったことから、記憶学習機能の向上作用との関連が示唆された。 3.初乳中にも高濃度に含まれ、鉄分の吸収や抗菌作用などその作用が注目されるラクトフェリン(LF)の吸収動態を明らかにするため、ブタ新生子を用いて解析した。その結果、LFはブタ新生子腸管から分解を受けることなく血液中へ輸送され、さらに胆汁中にも出現したことから、LFは腸肝循環することがELISA法及びウエスタンブロット法によって明らかになった。
|