1.ダニ脳炎患者の発生と診断;1993年、道南の上磯町の酪農家の主婦が重篤な脳炎に羅患した。この症例につき中和抗体の測定を実施したところ急性期と回復期の組血清でダニ脳炎のロシア春夏脳炎ウイルスに有意の抗体価の上昇を示し、日本脳炎ウイルスには抗体価が低いままであった。このことから本症例はダニ脳炎ウイルスの感染によるものと診断された。 2.イヌを歩哨動物にした疫学調査とウイルス分離;1995年4月から7月まで患者発生地区においてダニ脳炎ウイルス抗体陰性のイヌを歩哨動物として放し飼いにして抗体変動を調べ血液からのウイルス分離を試みた。10頭のイヌの中3頭の血液からウイルスが分離された。 3.マダニからのウイルス分離;患者発生地区において1996年5月から6月にかけてマダニ類を植生上から旗ずり法にて採集し種に同定後、ウイルス分離を試みた。採集マダニの中ヤマトマダニが最優先種であった。600匹のヤマトマダニを20匹を1プールとしてウイルス分離に供したところ、2株のウイルスが分離されマダニの最小感染率は0.33%(2/600)と計算された。 4.ノネズミからのウイルス分離;患者発生地区で1995年と1996年に捕獲したノネズミからウイルス分離を実施したところ、1995年のアカネズミ11匹中1匹と1996年のエゾヤチネズミ79匹中1匹から計2株のウイルスが分離された。 5.分離ウイルスの性状解析;上記で分離されたウイルスは単クローン性抗体を用いた蛍光抗体法によりダニ脳炎ウイルスと同定された。さらにウイルスエンベロープ蛋白遺伝子の核酸塩基配列を解析した結果、北海道分離株はダニ脳炎のうちロシア春夏脳炎ウイルス型であることが判明した。 6.ウマとイヌを用いた北海道におけるダニ脳炎ウイルス汚染地の特定;北海道の14支庁からウマとイヌの血清を集め抗体調査を実施したところ、ダニ脳炎の汚染地が渡島、檜山、後志及び胆振の4支庁に及んでいることが判明した。 これらの成績からロシア春夏脳炎型のダニ脳炎ウイルスが北海道の南部に広範に分布していることが明らかなった。さらに本ウイルスがヤマトマダニとノネズミの間で維持されていることが判明した。
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