アルツハイマー病では、βタンパクがタウリン酸化酵素の活性を刺激し、このため神経細胞内のタウタンパクが異常なリン酸化を受けるとの仮説が提唱されている。本研究では、アルツハイマー病患者、100才老人、ニホンサル、チンパンジー、クマ、イヌ、ネコ、ラクダおよびヒツジ脳内のタウタンパクのリン酸化状態について検討した。この結果、動物種に関係無く、リン酸化タウタンパクは、主にオリゴデンドログリアに分布していたが、アルツハイマー病患者や100才老人の脳では神経原線維変化や老人斑にリン酸化タウタンパクの異常な凝集が認められた。他動物の脳に同所見は認められなかった。従って、タウタンパクの異常なリン酸化には、βアミロイドの存在は必須のものではなく、この細胞骨格タンパクの変化はヒト脳特有の変化と思われた。また、βタンパクは凝集性タンパクであるが、βタンパク沈着部に血清アポリポタンパクであるapolipoprotein E(apo E)が局在することから、βタンパクの凝集やアミロイド線維形成に促進因子が存在すると予想されている。この現象を確認するため、イヌを中心に検討したところ、アミロイド沈着を伴う老人斑には、Apo Eの他α1-antichymotrypsin、cystatin C、Cathepsin B、Cathepsin D などが局在しているものの、瀰漫性斑にはApo Eの局在しか認められず、また抗Apo E抗体陽性を示す瀰漫性斑は、抗β抗体やRAM染色により検出される瀰慢性斑に比べ非常に少なく、むしろApoEとβタンパクの双方に陽性を示すものは稀であった。この結果については、クマ、サル、ネコ、ラクダ等でも同様の結果であった。これらの事実よりApo Eはβタンパクの産生過程よりも、本タンパクの凝集がすすみアミロイド線維が形成される段階で、何らかの役割をはたすものと予想された。一方、α1-antichymotrypsin、Cystatin C、Cathepsin B、Cathepsin Dなどのプロテアーゼやプロテアーゼインヒビターは、アミロイド線維が形成された後の反応産物として発現しているのではないかと推察された。
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