研究概要 |
(1)バベシア原虫の抗原変異機序の解明…単クローン抗体LA2を受け身移入したBo-RBC-SCIDマウスにBabesia ovataを感染させることにより、1A2抗体により増殖抑制されないエスケープ原虫を得た。共焦点レーザー顕微鏡およびウエスタンブロット解析により、1A2抗体はメロゾイト膜表層に存在する56Kダルトン蛋白質(p56)を認識することが明らかとなったが、エスケープ原虫ではこの抗原が欠損していた。B.ovataのλZap-cDNAライブラリーを作製し、1A2抗体をプローブとしたイムノスクリーニングを行うことにより、p56遺伝子のcDNAをクローニングし、その全塩基配列を決定した。p56cDNAをプローブとして原虫ゲノムDNAのサザンブロットを行った結果、p56はシングルコピー遺伝子と存在していることが判明したが、エスケープ原虫では、プローブと反応するバンドは得られず、p56遺伝子そのものが欠損しているものと考えられた。おそらく、B.ovataには抗原性の異なる幾つかのポピュレーションが含まれており、抗体で選択されることによりその一部がエスケープ原虫として出現したものと考えられた。 (2)脳性バベシア症モデルの病態解析…脳性バベシア症モデルの作出に世界で初めて成功した。すなわち、ウシ赤血球で置き換えたSCIDマウスにB.bovisを感染させることにより、ウシで見られるのと同様の脳炎様症状をマウス発現させることができた。病理組織的学検索の結果、バベシア原虫の感染したウシ赤血球表面にはマラリア原虫で見られているのと同様の突起(knob)が観察され、これを介して感染赤血球がSCIDマウスの脳毛細血管の内皮細胞に付着していることが確認された。また、感染赤血球同士もknobによって接着し、これらが合わさって血管内に感染赤血球の凝集塊(Sequestration)が生じ、それによってもたらされる循環障害が神経症状発現の一因をなしているものと想像された。感染赤血球の接着に関与する可能性のある血管内皮細胞表面の接着分子として、ウシのICAM-1,VCAM-1,E-selectin,CD36が考えられたのでそれらの遺伝子のcDNAクローニングを行なった。
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