木材腐朽のみならず、森林共生担子菌類あるいは植物病原菌はシュウ酸を生合成し分泌しているが、その理由ならびに生化学的役割については未解明の問題を多く含んでいる。このような観点で、シュウ酸生合成の生化学的調節機構の解明は森林資源の育成と保護において重要な意味を含んでいる。本研究の目的は、木質資源保護の立場から、木材腐朽担子菌類に従って、シュウ酸生合成関連酵素の発現と調節機構を解明することにある。これまでにシュウ酸合成酵素として、白色腐朽菌と褐色腐朽菌から、オキサロ酢酸加水分解酵素とグリオキシル酸酸化酵素を見いだしているが、その遺伝子については全く研究されていない。遺伝子レベルの解析研究をするためには酵素の精製が先決である。 今年度の研究目標としては、グリオキシル酸酸化酵素の精製法の確立に重点を置いて実験を行ってきた。まず、褐色腐朽菌(Tyromyces palustris)を33℃で培養し、菌体を摩砕、酵素蛋白質を抽出した。硫安分画後、疎水クロマト、イオン交換クロマト、ゲルろ過クロマト、ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーを行い、本酵素をネイティブな蛋白質として電気泳動的には単一な精製酵素を分離することに成功した。この中で、疎水クロマトグラフィーが最も有効な精製ステップであることがわかり、能率の良い精製法が確立された。本酵素は黄色酵素であり、スペクトルの解析から活性中心にはフラビンヌクレオチド(FMNまたはFAD)をもつフラボプロテインであると推定される。次年度では、精製グリオキシル酸酸化酵素のキャラクタリゼーションと反応機構の解明、アミノ酸N-末端周辺の配列、cDNAクローニング、活性中心の構造解析などを行う。
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