急速凍結装置が順調に稼働するようになり、良好な凍結状態の生体試料の作成が極めて容易になった。直径数マイクロメータの微細な孔をあけた試料支持膜(マイクログリッド)の開口部に水懸濁液の薄膜を貼り、急速凍結により非晶状態を保持したまま凍結させる。この方法を用いて、バクテリアセルロースの酵素分解過程について検討した。とくにバクテリアセルロースの場合は、酵素の相乗効果に加えて、セルロースそのものの構造が、分解プロセスに影響を与えることが示唆された。基質にはリボン状の天然に近いミクロフィブリルと、加水分解後の微結晶状セルロースの2種類を用いて比較したところ、天然のリボン状のミクロフィブリルは、NO_2-アミン系溶媒で作製した非晶セルロースと同程度の極めて早い分解挙動を示した。その要因として、天然のリボン形状のものが内部に残留応力を保持しており、酵素によるクラックの形成がフィブリルの自己分解を促進すること、また酵素がsurfactantとして働く結果、分解物の2次的な凝集が抑えられることが考えられた。これらの仮説を説明するために、分解過程のセルロース懸濁液を経時的にサンプリングして急速凍結し、高分解能で観察することを試みた。ところが低温ホルダと同時に納入された試料汚染防止装置のギャップ間の距離が、既存の電子顕微鏡のポールピースの磁極間距離にあわないことや、その電源から低周波の振動が冷却フィンに伝わることで、まともに高解像度の画像が取れない等の不具合が生じた。現段階では、装置的な多くの問題は解決したが、決定的な証拠写真はまだ得られていない。
|