平成7年度は、主に透過型電子顕微鏡によるラット海馬采グリア複合体の生後発達について観察を進め、以下の新知見を得た。 1、電子顕微鏡レベルでグリア細胞のアポトーシスを同定した。海馬采におけるグリア細胞のアポトーシスをin vivoで確認した意義は大きい。これによって、グリア細胞列が細胞分裂とアポトーシスとを繰り返しながら形成されることがより強く裏付けられた。 2、生後2週間から4週間におけるグリア細胞列のheterogeneityをMori & Leblondの分類により記載した。この結果から、各グリア細胞列がほぼ独立してoligodendrocyteを連続的に成熟させていく発達様式が示唆された。 これらの知見は、平成7年7月京都にて開催れた第4回IBRO世界会議で発表後、日本生物学的精神医学会の準機関誌である「脳と精神の科学」に投稿し、平成8年1月に同誌に受理された。なお、これらの知見を含む海馬采グリア構築についての観察結果を、同月開催された第1回グリア研究会で、さらに同年10月の東京都神経科学研究所および新潟大学解剖学講座におけるセミナーにおいて報告した。 免疫組織科学的手法を用いたグリア複合体の研究としては、これまでの抗glial fibrillary acidic protein抗体、抗myelin basic protein 抗体、Griffonia simpliforia といった各種グリア細胞のマーカーに加え、いくつかの抗体を用いた二重染色を試みている。本科学研究費は追加採択であったため、画像解析に要する機器の整備が遅れているが、平成8年度は蛍光色素による二重染色法の改良に力を注ぎ、共焦点型レーザー顕微鏡で得られた画像をコンピュータを用いて3次元的に解析する予定である。剖検人脳を用いたグリア複合体の比較解剖学的研究については、正常対照群の剖検脳の収集を進める一方で、人脳の海馬および海馬采の剖出手技を確立すべく肉眼解剖学的な検討を始めたところである。
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