カンプトテシンは中国原産の喜樹から抽出されたDNAトポイソメラーゼIの阻害剤である。その誘導体塩酸イリノテカン(cpt-11)は肺癌、大腸癌、卵巣癌などの難治性の癌にも優れた効果がある。しかし、新聞にも報告されたごとく、その副作用として白血球減少や激しい下痢があり、その使用は現在厳格にコントロールされている。この激しいコレラ様下痢は従来の下痢止め薬では止められなく、新しい下痢機構が考えられた。 そこで、本研究ではこの下痢発症機構を解明し、下痢抑制方法を確立することを目的とした。これまでに得られた研究結果を要約すると、塩酸イリノテカンにより、大腸の粘膜上皮下の細胞から、トロンボキサンA_2(TXA_2)が遊離され、粘膜のクリプト細胞にある受容体に到達し、クリプト細胞を刺激し、塩素イオン分泌を亢進し、下痢にいたる。この機構はこれまでに知られていなかった新規機構である。具体的には、以下の成果を得た。A)イリノテカンは粘膜上皮下の細胞からTXA_2を濃度依存的に遊離することを、溶液中にでてくるTXA_2を定量する事により得た。B) TXA_2受容体遮断薬およびTXA_2合成阻害薬の作用により、イリノテカンの作用を遮断しうることを確認した。C) TXA_2刺激により、クリプト細胞の分泌側膜中にある塩素イオンチャネルが活性化させる。その細胞内メッセンジャー機構にカルシュウムが関与することがわかった。D) TXA_2の安定誘導体STA_2がTXA_2の作用をmimicすることがわかった。これらの結果、イリノテカンによる下痢を抑制する手段として、インドメタシン座剤、TXA_2合成阻害薬・受容体遮断薬が今後検討されうる方法としてあげられる。
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