目的:生体がある平衡状態から次の平衡状態に移行する際の体液のダイナミックスを解析するには、血液量、電解質を連続測定する必要がある.本研究ではこれらをヒトにおいて連続測定するシステムを確立し、(1)下半身陰圧テスト時の循環血液量と血管内の水の動的な移動、(2)種々な水温による頚下浸水時の体温および動的な体液変動、(3)飲水時の体液の「間質-血管内」の水の移動の機序の解明に寄与することを目的とした. 実験結果と考察:(1)下半身陰圧負荷により初期の一時的な血漿量増加に引き続いた血漿量減少があることを観察した.電解質には有意な変動がなかった.下半身陰圧は血液量及び分布の速やかな変動を起こし、その変動は一方向的ではないことが判明した. (2)頚下浸水実験(中性水温、34.5C)では、浸水後直ちに(20分まで)急速な血液量の増加があり、その後プラトーに達した.このような変動は頚下浸水による下肢の血管外から血管内への水の移動と腎からの水分の排泄(尿量)の動的な変動であると推論した.水温32℃(下限界温度)および36℃(上限界温度)でも実験を行った.下限界温度においては血管収縮反応および血圧の上昇が見られるにもかかわらず、血管壁を介しての正味の水分移動は温度依存的ではないことが判明した. (3)飲水により直後の一時的な循環血漿量の減少に引き続き血漿量増加があることが初めて実証された(二相性の変化).この因子として一時的な血圧の上昇が血管壁を介しての水の移動に重要であることが解明された. 研究のまとめ:この研究は、体液の変動の連続測定を行うことにより、生体があるひとつの体液平衡状態から次の状態に移行するときの機序を解明することに貢献した.体温の変動による生理反応が圧受容器へ影響を及ぼすまでに種々な緩衝作用が働き、影響が少なくなるような機構があると考えられた.
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