研究概要 |
虚血・再潅流障害の第一歩は心筋に活性酸素が生じることであるといわれている。そこで、まず活性酸素の一種である過酸化水素を潅流心臓に投与し、虚血・再潅流障害と同様の障害がおこることを確認した。さらに、活性酸素による障害が、虚血・再潅流障害を軽減するdilazepやK-7259によって軽減されることを明らかにした。 心筋における虚血再潅流障害の他の重要な原因は、リゾホスファチジルコリンや長鎖アシルカルニチンの心筋組織内蓄積であると考えられている。これらの物質はともに両親媒性物質であり、細胞膜に障害を与えることが分かっている。最近、リゾホスファチジルコリンは酸化窒素(NO)の合成を促進することが認められた。そこで、本研究では長鎖アシルカルニチンの一種であるパルミトイル-L-カルニチン(PLC)もリゾホスファチジルコリン同様にNO合成を促進するか否か、さらに、PLCによる心機能障害やエネルギー代謝障害に対して、NO合成酵素阻害薬がいかなる影響を及ぼすかについて検討した。 雄性Sprague-Dawleyラット(8-9週令)から摘出した心臓を、95%O_2で平衡にしたKrebs-Henseleit bicarbonate液を用いてLangendorff式に潅流した。潅流は定潅流量(10ml/min)とし、電気刺激により心拍数を一定(300beats/min)にした。約20分潅流した後、NO合成酵素阻害薬であるN^G-nitro-L-arginine methyl ester (L-NAME)(50μM)の投与を開始した。その5分後から10分間PLC(5μM)を投与した。L-NAME投与は40分間行い、その間心機能の指標として左心室内圧を経時的に記録し、エネルギー代謝の指標として、組織中ATP,ADP,AMP及びクレアチンリン酸(CrP)含量を酵素法を用いて測定した。また、冠静脈排出液中のNO,NO2,NO3含量をSivers NO analyzer (Model 270B)を用いて経時的に記録した。 対照群(薬物非投与群)にPLCを投与すると、左心室内developed pressureの低下とend diastolic pressureの上昇(心機能障害)、ならびに組織内ATP含量の低下とAMP含量の増加(エネルギー代謝障害)をひきおこした。L-NAMEはPLCによる心筋障害を著明に抑制した。
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