研究概要 |
心筋における虚血・再潅流障害の原因は、酸素の心筋への供給の低下であるが、我々はこのほかに、虚血・再潅流中に心筋組織に蓄積する活性酸素,リゾホスファチジルコリン(LPC)、パルミトイル-L-カルニチン(PALCAR)などが心筋細胞にさらなる障害を与えることが重要な原因であるという仮説を立てている。これらの物質(虚血・再潅流時に心筋に蓄積し心筋細胞を障害する物質)を虚血毒と呼ぶことにする。もし、この仮説が正しければ、虚血・再潅流障害を抑制する物質(dilazep,K-7259,d-propranolol,verapamil,lidocain,propofolなど)は虚血毒による心筋細胞の障害を抑制出来る筈であり、逆に虚血毒の作用を遮断出来る物質は、虚血・再潅流障害を軽減する筈である。この仮説に基づいた研究が本実験の第1の目的である。第2の目的は虚血・再潅流障害または虚血毒による心筋障害に一酸化窒素(NO)がどのように関与しているのかを知ることである。この理由は、近年、内因性のNOが活性酸素による組織障害を抑制することが報告されているからである。そこで、虚血・再潅流ならびに虚血毒(H_2O_2を含む)による心筋障害を抑制するdilazepやK-7259が心筋のNO産生を促進するか否かについて検討した。 第1の実験の結果、虚血・再潅流障害を軽減する薬物は、虚血毒による心筋障害を抑制することが明らかとなった。興味あることに、β-受容体拮抗薬やCa^2+チャネル遮断薬は虚血毒の細胞障害作用を軽減したが、その作用メカニズムはNa+チャネル遮断作用のためである可能性が出てきた。この点が本実験で得られた最も重要な結果である。第2の実験では、虚血・再潅流または虚血毒による細胞障害作用と一酸化窒素(NO)との関連について実験をした。まず、虚血・再潅流をした時に、心筋からのNOの遊離が虚血。再潅流障害抑制物質によってどのような影響を受けるか否かについて実験した。その結果、dilazepやK-7259を投与しても、冠流出液中のNO_2,NO_3遊離量(高感度のオゾン化学発光法を用いて測定)に有意な経時的変化は認められなかった。従って、dilazepとK-7259は、冠流出液中のNO_2+NO_3遊離量に影響を及ぼさないこと、すなわちNO産生を促進しないことを示した。したがって、過酸化水素に対するdilazepやK-7259の心筋保護作用の機序に、NOが関与する可能性は少ないものと思われる。
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