研究概要 |
1)ラット大脳皮質の膜画分を用い、特異的ポリクロナール抗体によるPLCアイソザイムの発現とG蛋白質刺激によるPLC活性化機構を検討した。大脳皮質にはPLC-β_1,PLC-γ_1,PLC-δ_1のアイソザイム発現が認められ、これらの発現の程度はPLC-β_1=PLC-γ_1>PLC-δ_1の順でそれぞれIP_3産生への機能的な役割は異なっているものと考えられた。Gpp[NH]p刺激によるIP_3産生は、100μMにより促進され10nMにより抑制された。このことからG蛋白質サブユニット(αおよびβ)によるPLC活性の二重調節機構の可能性が示唆された。そこでラット心室筋膜やヒト血管内皮細胞における受容体依存性PLC活性の二重調節(促進・抑制)機構を検討した。ラット大脳皮質膜での成績に比べ、ラット心室筋膜やヒト培養血管内皮細胞におけるPLC-β_1蛋白質発現やbasal IP_3量は微量のため、PLC情報伝達系における二重調節(促進・抑制)機構の理解は達成されなかった。 2)細胞増殖・癌化における細胞内情報伝達系の一つであるイノシトールリン脂質代謝系の中で中心的役割を果たしているホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP_2)がいくつかのアクチン調節蛋白質と結合し、PLC活性化機構を調節している可能性が注目されている。そこで我々はアクチン調節蛋白質ゲルゾリンによるPLC調節機構に着目し、マウス神経芽細胞腫TBJ細胞を用い検討した。TBJ細胞には、リポフェクチン法によってゲルゾリンサブユニットのcDNAあるいはネオマイシン耐性遺伝子(コントロール)をトランスフェクトした。Basal IP_3量は、ゲルゾリン強制発現細胞において高値を示した。ゲルゾリンを強制発現させた細胞では、ゲルゾリンの強発現に加えてPLC-β_1,PLC-γ_1,PLC-δ_1のアイソザイム発現が認められ、これらの発現程度はPLC-δ_1>PLC-γ_1>PLC-β_1の順でIP_3産生への機能的な役割は異なっているものと考えられた。EGF(上皮増殖因子)受容体刺激によるIP_3産生は、コントロール細胞と比較し、ゲルゾリン強制発現細胞では2倍に増大した。このことから、神経系細胞に局在するアクチン調節蛋白質ゲルゾリンは、PIP_2-PLC調節機構において重要な機能的役割を有してしてる可能性が示唆された。
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