日本人の食生活、生活環境の欧米化に伴い、心筋梗塞をはじめとする動脈硬化性疾患が多発している。その危険因子の一つにLDLコレステロールがあげられる。この血清LDL-コレステロールを低下させる試みがなされていたが、最近になりHMGCoA還元酵素の阻害剤が開発された。当研究室におけるこれまでの研究により、代表的HMGCoA還元酵素阻害剤であるシンバスタチンには、血清コレステロール低下作用のみならず血管内皮細胞の細胞膜コレステロール含量を低下させる作用のあることが判明した。シンバスタチン前処理によって、細胞膜コレステロール含量を低下させた培養血管内皮細胞の膜流動性の変化について詳細に検討した。ヒトの臍帯由来の培養血管内皮細胞をシンバスタチン1ng/mlで2日間処理したところ、細胞膜コレステロール含量は有意に低下した。続いて、シンバスタチンによる膜流動性の変化を検討した。膜流動性の変化は、MobilityとRecoveryの二項目を指標とし、レーザー顕微鏡にて膜の一ヶ所をブリーチすることによって求めた。その結果、シンバスタチンで前処理した培養血管内皮細胞では、MobilityとRecoveryの双方が有意に上昇していることがわかった。上昇率はMobilityで約2倍、Recoveryは1.5倍であった。ついで、シンバスタチン処理によって膜流動性の上昇した培養血管内皮細胞の増殖能について検討したところ対照の約半分に増殖能が低下していることが判明した。その意義について今後解明して行く予定である。
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