低分子量G蛋白質Rasは複数の標的蛋白質を介して、種々の細胞機能を制御することが明らかになりつつある。私共はこれまでにRasの標的蛋白質であるRafが14-3-3蛋白質と結合することを明らかにしている。本研究において、COS細胞内でRasと14-3-3蛋白質はRafの異なる部位に結合することが明らかになり、Rasと14-3-3蛋白質の両蛋白質がRafに同時に結合することによりRafが活性化される可能性が示唆された。私共はRalGDSがRasの新しい標的蛋白質であることを提唱している。EGFの濃度依存性にRalGDSはRasと結合した。RalGDSもRafと同様にAキナーゼによりリン酸化されたが、Aキナーゼの活性化はEGF依存性のRasとRalGDSの結合には影響しなかった。また、Rasの標的蛋白質結合部位の変異体を用いて、RalGDSを介するシグナル伝達系がRafとは異なることが明らかになった。さらに、RalGDSはRafと相乗的に作用してc-fos遺伝子の発現を促進した。これらの結果から、RalGDSはRafとは異なるRasのシグナル伝達系を構成することが決定的になった。脂質による翻訳後修飾を介して細胞膜に存在するRasがRalGDSを細胞質画分から細胞膜画分へトランスロケ-トさせた。また、RalGDSは非翻訳後修飾型のRalよりも翻訳後修飾型のRalに強く作用した。したがって、RasとRalの翻訳後修飾はRalGDSを介するRasのシグナル伝達機構を構成する分子を膜上に集合させることにより、シグナルを効率的に伝えるために重要であると考えられる。以上の結果から、RalGDSを介するシグナル伝達機構はRasの下流において、Rafを介するシグナル伝達機構と独立した機能および相乗的に作用する機能を有することが明らかになった。本研究は予定通り進行したと判断しているが、今後もさらに詳細な検討を続けて、Rasを介するシグナル伝達機構の全貌を明らかにし、その異常による病態を解析したいと考えている。
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