初年度はホスホリパーゼDの無細胞系での活性測定方法を確立することに焦点を絞り研究を進めた。哺乳類のホスホリパーゼDは抽出した状態では活性が強く抑制されており、生化学的研究を行う際の大きな妨げとなっていた。我々は抽出した状態のホスホリパーゼDに高濃度(1.6M)の硫酸アンモニウムを加えると、ホスホリパーゼDの活性が数百倍上昇することを見い出し、この現象を応用し哺乳類におけるホスホリパーゼDの活性測定法を確立した。ホスホリパーゼDを動物組織より抽出し、その活性を測定したところ、脾臓、腎臓に最も高い酵素活性が見い出され、用いる酵素活性測定条件により、今までの報告とは全く異なった分布結果が得られることを明らかにした。一方、腎臓ホスホリパーゼDはその活性にGTP-γ-Sが必須であり、GTP-γ-S存在下にプロテイン・キナーゼC、及びチロシンキナーゼによる燐酸化反応が、酵素反応を更に活性化することを明らかにした。 最終年度は、我々が確立したホスホリパーゼDの活性測定法を用いて、酵素活性に影響を及ぼす因子の同定、並びにこれらの因子存在下でのホスホリパーゼDの活性調節機構を酵素学的に解析した。ホスホリパーゼDは細胞膜結合型蛋白質であり、その酵素活性発現には、細胞質の可溶性画分に存在するG蛋白質、更にG蛋白質以外の蛋白質が酵素の活性化に関与することを示す実験的根拠を得た。この因子は分子量36kの熱安定性を示す蛋白質であり、組織分布が酵素のそれと一致することから、ホスホリパーゼDの生理的な活性化因子である可能性が強く示唆された。また、エタノールアミン燐脂質がホスホリパーゼDの活性発現に必須であることを証明し、ホスホリパーゼDの活性化に蛋白質因子のみならず燐脂質を含む大きな構造体が関与することを明らかにした。燐酸化を介した活性調節機構、細胞骨格系とホスホリパーゼDの関連など未解決の問題があるものの、分子レベルでのホスホリパーゼD活性調節のメカニズム解明に大きく前進したと言えよう。
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