研究概要 |
本研究は動脈硬化自然発症マウス(Apoliporotein E欠損マウス)を用いて内皮細胞上に発現される接着因子の発現動態を観察し、動脈硬化発症のメカニズムを検討することを目的としている。方法は動脈をそのまま切り開いて染色するin situ免疫染色法を用い、内皮細胞を広範に観察した。検索した接着因子はE-selectin,P-selectin,VCAM-1,ICAM-1ならびにPECAM-1であるが、平成7年度の研究ではVCAM-1とICAM-1が動脈硬化好発部位に強く関連して発現しているという興味深い結果が得られた。しかしこれはfoam cell lesionが見られ始める8週齢のマウスのみを用いた検討であり、時間経過を追って観察したものではなかった。このため本年度は内皮細胞上への単球の接着が見られるようになる6週齢のマウス、ならびに進行した病変である粥腫の形成が見られる20週齢のマウスを用いて更なる検討を行った。この結果VCAM-1はfoam cell lesionの出現前から脂質の制御下に動脈硬化好発部位の内皮細胞に発現し、病変の発生に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。一方、ICAM-1は週齢やApoE欠損の有無に無関係に動脈硬化好発部位に広範に発現しているところから、動脈硬化の発生に何らかの役割を果たしてはいるもののkey proteinとしてではなく、補助的な役割を果たしている可能性が示唆された。また、VCAM-1、ICAM-1いずれも20週齢の粥腫病変ではshoulder部の方が頂上部よりも強い発現がみられ、進行した粥腫でも水平方向への病変の進展に両者の接着因子が重要な役割を果たしている可能性があることが示唆された。このようにVCAM-1とICAM-1は動脈硬化の発生ならびに進展に重要な役割を果たしている可能性があるという興味深い結果が本研究から得られた。電顕的にはVCAM-1が発現している内皮細胞下には浮腫状の変化と無定形物質の沈着が見られたが、脂質の関与に関しては今後の検索課題である。E-selectinとP-selectinは発現が見られなかったことから、これらの接着因子の動脈硬化発生への関与は薄いと今回考えられたが、最終的な結果を出す前には他の抗体を用いなどして今後も充分に検討していく必要があると思われた。
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