本年度はタイで分離された熱帯熱マラリア原虫株についてメロゾイト表面抗原のMSP1、及び、スポロゾイト表面抗原のSSP2について抗原多様性を遺伝子レベルで解析した。以下の知見を得た。 1.24通りあるMSP1遺伝子型の出現頻度をPCR法で調べたところ、確認できた遺伝子型の数は17個であった。その中で遺伝子型の17番と2番が多く出現した。昨年度解析したベトナムの分離株のものと比較すると、出現頻度において有意な差が見られた。原虫集団間の遺伝的構成の差異をFst指標でみたところ、タイとベトナムではブロック2以外は有意に異なっていた。 2.MSP1遺伝子中央部と3'領域(ブロック6-16)において組換えが見られるかどうかを検討したところ組換えはまったく認められなかった。一方、MSP1遺伝子のブロック3、4、5において組換えが確認できたので、変異領域ブロック(ブロック2、4a、4b、6)の間での連鎖解析をおこなった。各ブロックにおけるK1型、MAD20型、RO33型の出現頻度を算出し、X^2解析を行ったところ、ランダムに組換えが起こっている部位(ブロック4)、とそうでない部位(ブロック3と5)が存在することが明らかとなった。 3.MSP1のC末端部19kD領域における変異を調べたところ、タイ分離株では既に知られているものとは異なる変異が2箇所で認められた。 4.TRAP遺伝子の多型を20株についてシーケンシングにより調べ、他の地域で認められている多型を較べた結果、タイ株に特有な変異箇所も認められ、TRAP遺伝子の保存領域がさらに詳細に確定することが出来た。また、TRAP遺伝子でも組換えが起こっていることが示唆された。
|