タイ、ベトナムで得られた原虫株について、マラリア原虫抗原多様性を遺伝子レベルでその多型をPCR法、及び、DNAシーケンシングにより調べた結果、次のような知見を得た。 1.三日熱マラリア原虫メロゾイト表面抗原PvMSP1の遺伝子多型に関して:タイの15株についてPvMSP1のICB5とICB6において計35個の変異があり、そのほとんどは二型的変異であった。変異領域ではBelem型(タイプ1)1株とSal-1型(タイプ2)9株以外に、タイプ1と2の組換え型を2種類認めた。そのうち1株は新たに発見されたもので、PvMSP1においてもPfMSP1と同様に、組換えによって多型が生じていることが強く示唆された。 2.熱帯熱マラリア原虫メロゾイト表面抗原PfMSP1の遺伝子多型に関して:PfMSP1の変異ブロック特異的プライマーをデザインし、PCR法によって24通りの組換え型(遺伝子型)を調べるシステムを開発した。そのシステムを用いてベトナム、タイで分離された野生株約300個について多型を調べた結果、確認できた遺伝子型の数は17-21個であった。遺伝子型の出現頻度において両地域で有意な差が見られた。原虫集団間の遺伝的構成の差異をFst指標で見たところ、ブロック2以外は有意に異なっていた。MSP1の変異領域ブロックの間での連鎖解折をおこなったところ、ランダムに組換えが起こっている部位(ブロック4)、とそうでない部位(ブロック3と5)、また、まったく起こらない部位(ブロック6-16)が明らかになった。また、タイ分離株ではMSP1C末端部19kD領域において、既に知られているものとは異なる変異が2箇所認められた。 熱帯熱マラリア原虫スポロゾイト表面抗原TRAP遺伝子多型をタイの20株について調べた結果、タイ株に特有な変異が認められた。また、TRAP遺伝子でも組換えが起こっていることが示唆された。
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