粘膜上皮細胞への赤痢菌の侵入と拡散は、本菌のIpaBCDとVirGにより各々行われる。Ipa蛋白の菌体表層への分泌は大プラスミドのコードするMxi-Spa type III蛋白分泌装置により行われが、菌が細胞侵入性を発揮するためにはさらに菌体からIpa蛋白が遊離する必要があることを明らかにした。このIpa蛋白の遊離は、赤痢菌を極性化した上皮細胞の側底面側と接触させると促進されること、さらに赤痢菌を細胞外マトリックスと接触させても同様にIpa蛋白の遊離が引き起されることを見い出し、これが赤痢菌が上皮細胞の側底面から侵入する原因の一つと考えられた。菌体から遊離したIpa蛋白がインテグリン(α5β1インテグリン)とin vitroおよびin vivoの条件下で結合し、その結合が赤痢菌の上皮細胞侵入に必要であること、また赤痢菌の上皮細胞侵入に際しては、菌の付着部位にインテグリンの集積とアクチン重合が誘導され、さらにその部位にビンキュリン、α-アクチニン、テーリン等の細胞接着斑構成蛋白が極在化することを認めた。また赤痢菌の感染に伴い上皮細胞内のpp125^<FAK>やパキシリンのチロシンリン酸化が特異的に誘導されることを見い出した。これらの結果から、赤痢菌のIpa蛋白は上皮細胞上のインテグリンを受容体として結合し、細接着斑の機能亢進により誘導されるアクチン系細胞骨格蛋白の再構築を利用して細胞内へ侵入することが強く示唆された。インテグリンの集合とそれに伴う細胞接着斑の形成は、低分子量GTP結合蛋白のひとつであるrhoに依存していることが知られている。赤痢菌の細胞侵入もrhoの活性に強く依存していることを種々の方法で示し、その細胞侵入に要な細胞骨格蛋白の再建築がrhoに支配されるシグナルに制御されていることを示唆した。
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