ウイルスの感染と抗体による中和は盾の両面をなす問題であって感染機構の解析は中和現象を手がかりに進められる。中和活性を持つモノクローナル抗体(2D5mAb)により膜融合を引き起こすワクチニアウイルス蛋白(VP23-29K)とそれをコードしている遺伝子(L1R)を同定し、反応性の明らかな中和抗体を用いてウイルスの抗体抵抗性を検討した。ポックスウイルスのDNAゲノムは安定していて変異によって抵抗性を獲得しているのではないし、媒介生物もなく細胞内潜伏機構も持っていない.しかし何らかの抵抗手段を持つことは生存に必須である。細胞培養の系でワクチニアウイルスの中和を2D5mAbにより調べたところ二種類の抵抗手段が明らかとなった。(1)ワクチニアウイルスは成熟型粒子とそれが細胞由来の膜に包まれた粒子を形成する。包膜は細胞の膜に由来するがウイルスを包ませる機能はウイルスの遺伝情報によっている。包膜粒子は抗体の作用を全く受けないことを見いだした。包膜をはぎ取ったウイルスと比較すると包膜は抗体とVP23-29Kの結合を妨げるが内部のウイルス粒子は包膜を持たない成熟型粒子と同様にウイルス膜と細胞膜の融合によって感染している。包膜粒子と成熟型粒子はそれぞれ独自のレセプターを介して吸着するが侵入機構は共通である。(2)抗体抵抗性の変異ウイルスでは中和エピトープが膜融合蛋白の遺伝子や機能を損なうことなく変化しており、また隣接する別の蛋白が変異してアッセンブリー時にエピトープを変化させる。その蛋白はHAであった。単純な抗原性の変化に加えて組み合わせによって変異の幅を拡大していることになるがこの点は尚検討中である。
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