デング出血熱の発病機構に係るウイルス毒力説の直接的証拠を得る目的で、1993年タイ国東北部ナコンパノムにおいて臨床的に重篤度の異なる患者から分離された2型デングウイルス遺伝子の塩基配列と、それから推測されるアミノ酸配列を比較解析した。 (1)ウイルス蛋白質のアミノ酸配列から、分離株は3つの亜型に分類され、亜型1は最も重症のDSS患者からの分離株、亜型2はDHF患者分離株2株とDF患者分離株2株、亜型3はDF患者分離株3株であった。 (2)3′非コード領域(3′NCR)に推測される2次構造からも分離株は3つの亜型に分離され、亜型1はDSS患者分離株、亜型2はDHF患者分離株2株とDF患者分離株3株、亜型3は2株のDF患者分離株であった。 これらの結果から、亜型1のアミノ酸配列と亜型1の3′NCRを有するウイルス株に感染した場合、臨床症状は重篤化する可能性があるのに対して、亜型3のアミノ酸配列と亜型3の3′NCRを有する株の感染は軽症で済む可能性が推測される。 LLC-MK2細胞に形成されるプラークサイズは、ウイルス遺伝子の構造よりもむしろ、各株が分離された患者の血清反応と関係している。 更に1993年、タイ国バンコックの流行から分離された4株の4型デングウイルス遺伝子を比較解析した。その結果、軽症のDF患者分離株に特異的なアミノ酸置換、及び比較的重症のDHFgradeII分離株にそれぞれ特異的なアミノ酸置換が存在した。これらのアミノ酸置換は蛋白質の性状に重大な影響を与えると考えられるので、上記2型デングウイルスの結果と総合してデング出血熱の発病機構にウイルス遺伝子の塩基配列が関与していることを推測させる。 これらのアミノ酸置換或いは3′NCR構造を有するウイルス株の生物学的性状の解析と、デング出血熱発病機構との係わりは今後の研究課題である。
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