FG 7142(N-methyl-β-carboline-3-carboxamide)は実験的に合成されたβ-カルボリン誘導体である。この物質はベンゾジアゼピンレセプターに結合してベンゾジアゼピンの作用とは逆の作用(inverse agonist)を有することが約10年前に明らかにされている。その後ボランティアによる人体実験により不安発作を起こすことが証明されヒトに対する不安誘発物質であることが確定している。我々はこの不安誘発物質(FG 7142)がタバコ煙中に存在することを明らかにすると共に、その発生機序を検討した。FG 7142はタバコの葉には存在せず、燃焼過程で生ずることを明らかにし、またタバコ葉に存在するβ-カルボリン類および燃焼過程で発生するメチルアミンがFG 7142の前駆体である可能性のあること示した。さらに、FG 7142はタバコ煙で汚染された室内空気ばかりでなく大気粉じん中にも存在し、冬期の大気粉じん中のFG 7142レベルが夏期に比して高いことを明らかとした。この原因を明らかとするために自動車排ガス、ゴミ焼却灰中における存在を検討した。ゴミ焼却灰中には極めて低レベルのFG 7142が検出されたが、ディーゼル排ガスおよび自動車排ガス標品中には検出されなかった。これらの結果よりFG 7142は石油燃料の燃焼では生ずる可能性は低いと考えられる。一方、自動喫煙器を用いたモデル実験より室内空気中のFG 7142はタバコ煙により著しく増加することが証明され、室内におけるFG 7142の発生源はタバコ煙であることが明らかとなった。以上の結果より、不安誘発物質FG 7142は、室内空気ばかりでなく大気中にも存在することより広く環境に分布していると考えられる。野外環境における発生源は確定されていないが室内でのFG 7142の発生源の一つはタバコ煙であると考えられる。また、FG 7142の発生機序としては植物中に広く分布しているβ-カルボリンと物質の燃焼過程で生ずるメチルアミンが燃焼過程で反応して生ずることが予想される。
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