近年、生体内での一酸化窒素(NO)合成の存在が報告され、NOは、腎局所で、強力な血管拡張因子として腎ヘモダイナミックスの調節に関与している可能性が示唆されている。生体内では、NO合成酵素(NOS)の関与によりL-アルギニンからNOの合成が行われる。現在までのところ、脳由来型(NOS-1)、マクロファージ由来誘導型(NOS-2)、血管内皮由来型(NOS-3)、肝由来誘導型(NOS-4)の4種類の遺伝子が知られている。故にこの研究では、高蛋白食、標準食、低蛋白食を摂取させたラットを用いて急性閉塞性腎症(BUO)、シャム手術(SOC)モデルを作製し、腎ヘモダイナミックスの調節に直接関与する糸球体を採取して、(1)糸球体によるNO産生能(2)糸球体中のNOS-1・2・3酵素の存在量(3)糸球体中のNOS-1・2・3mRNAの発現を評価し、高蛋白食による腎障害の憎悪の機序および低蛋白食による腎障害の進展予防の機序をNOの観点から食品衛生学的に評価した。SOC群・BUO群共に、摂取蛋白量の増加に伴い、糸球体によるNOの産生量は増加した。また、SOC群では、摂取蛋白が増加するにつれ、NOS-1mRNA・NOS-3mRNAの発現は増強したが、NOS-2mRNAは、摂取蛋白量が変化しても同定されなかった。逆に、BUO群では、摂取蛋白の増加により、NOS-2mRNAの発現は増強したが、NOS-1mRNA・NOS-2mRNAの発現は、SOC群に比し有意に低下していた。従って、高蛋白食では、NOS-2mRNAの発現の増強によりNOが大量に産生され、それによる組織傷害のために腎障害が増悪することが示唆される。逆に、低蛋白食では、NOS-2mRNAの発現が抑制されることにより、腎障害の進展が予防されるものと思われる。糸球体中のNOS-1・2・3酵素の存在量については、現在検討中である。
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