研究概要 |
2年間にわたって800名の労働者を対象に,職場ストレスとメンタルヘルスに関するコホート研究を行った資料を分析した.質問紙の内容は全般健康調査票(General Health Questionnaire,GHQ),職場ストレスに関する14項目などとし,主観的職場ストレスとメンタルヘルスとの関連を検討した.メンタルヘルス上の不健康状態の2年リスクは58%にもおよび,ストレスあり群のなし群に対する2年リスク比の大きかった主観的ストレス項目は,「トラブルが多すぎる」,「上司との関係が悪い」,「責任が重すぎる」,「技術の進歩についていけない」であった.多重ロジスティック分析の結果では,他の交絡要因を調整しての上記ストレス項目のリスクオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ,2.1(1.3-3.6),2.1(1.2-3.7),2.1(1.3-3.4),2.0(1.1-3.4)であった.また,コックス比例ハザードモデルを用いた分析でも,「仕事のトラブルが多すぎる」,「責任が重すぎる」についての羅患率比が2を越え,有意であった.したがって特定の職場ストレスと精神的不健康との間の因果関係が強く示唆された.また,当初メンタルヘルス上問題のあったケースの回復を見るための1年間のコホート研究では,最初の6ヶ月間で49%の者が回復し,1年間で68%が回復していた.多重ロジスティック分析によって交絡要因をコントロールしての,回復と「責任が重すぎる」という主観的ストレスとの間のオッズ比(95%信頼区間)は4.2(1.3-13)であった.職場におけるメンタルヘルス上の疾病状態からの回復には,罹患とは異なる特定の主観的職場ストレスが関わっていることが明らかとなった.また,3回の調査に関してGHQとストレス項目の因子分析を行ったが,それぞれの因子構造は経時的に安定したものであった.
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