研究概要 |
鉛に暴露されると,早期に且つ特異的にポルフィリン代謝異常が発現するが,その発現の程度にはかなりの固体差(感受性差)が存在するように思われる.そこで,この様な感受性差がいかなる内部環境要因によってもたらされるかを解析するに当たり,今年度は先ず,鉛作業者においてポルフィリン代謝異常の発現に性差が認められるか否かを明らかにする研究に着手した.わが国内外の産業医学関係者の協力を得て,鉛関連作業に従事する労働者,男女各数百名より生体試料(末梢血、尿の一部)を収集し,鉛の体内暴露量の指標である血液中鉛,鉛の影響指標である血漿並びに尿中のデルタアミノレブリン酸(ALA)量,さらには尿中コプロポルフィリン(CP)排泄量を測定し,相互関連性を統計学的に解析した. 得られた血液中鉛量を男女の鉛作業者で比較したところ,男女間に有意差は認められなかった.即ち,今回の対象集団では好都合なことに,鉛暴露の程度は男女とも同程度であることが推定された.ところが,血漿並びに尿中ALA量を男女の鉛作業者で比較すると,それらの値は女性労働者の方がはるかに高値を示した.また尿中CP排泄量に関しても同様な結果が得られた.これらの知見は,ヒトにおいても鉛暴露によるポルフィリン代謝異常の発現には性差が認められ,特に女性の方が感受性が高いことを示唆するものである.これまで鉛作業者集団における性差の研究は極めて少なく,ことに女性の鉛作業者が殆ど居ないわが国での研究は不可能であった.幸い中国における女性労働者からの試料が収集できたため,今回の解析が可能となった.
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