研究概要 |
本研究の初まりは、ヒト骨格筋アデニル酸キナーゼ(AKI)のDNAの塩基配列が未定であった1989年に、そのアミノ酸一次配列に従って、大腸菌が選択するコドンにもとずく塩基を人工的に合成することで得られた遺伝子のタンパク質発現とnativeな酵素と同じ比活性値を有する野生型を入手し得たことにある〔Kim,H.J.et al.,Prot.Eng.,2,379,(1989)〕。さらにそれ以前に、筆者の一人(M.H.)が、家兎、仔ウシ酵素でそのnativeな酵素と12個に分断したペプチドを用いた基質との結合平衡を調べた成果〔Hamada,M.,Arch.Biochem.Biophys.,195,155,(1979)〕にもとずく酵素基質相互作用の基礎的データを有していた為に、さらにより祥細な相互作用の部位を特定することを目的とした。前年度に一定箇所の残基について一度に複数の変異体を得る方法の確立と各変異体の分離精製方法を確立した。平成8年は主として得られた変異体と野生型との主要なリジン残基の部位特異的変異における基質との親和性、触媒能そして触媒効率などのパラメーターを得て相互作用の比較検討を行った。哺乳動物で相同性が高いリジン残基(K9,-21,-27,-31,-63,-131,-194)に対して行ったランダムなsite-directed mutagenesisにより、26種類の変異体を得た。これら変異体に対して、プライマーを用いて増巾(PCRにより)を行い、大腸菌でのタンパク質発現を前年度の方法で行い、精製後、定常状態でのkinetics解析を〔Hamada,M.,Arch.Biochem.Biophys.,190,772,(1978)〕の方法に準じた。リジン残基の変異体は基質との親和性を称々な程度に増減させるもの、また、リン酸転移効率を種々増減させるものが観察され、親水性である塩基性リジン残基が本酵素活性に不可欠であることが示された。計画を予定していたダブルないしトリプルの残基の変異体ないし、キメラ酵素とその変異体の実験には到らなかった。筋疾患、臓器虚血やがんに伴う本酵素遺伝子やmRNAの発現、そして、特にがん化やがん抑制遺伝子と本酵素やその変異体発現との関連に関する研究計画は次の科学研究費助成に依存することとなった。
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