研究概要 |
ヒト骨格筋細胞質局在のアデニル酸キナーゼ(AK1)は、筋細胞内アデニンヌクレオチドの平衡に関与し、種々の生物種に普偏的に存在するアイソザイムの一つである。本酵素の生理学的意義はクレアチンキナーゼとの協調によって細胞内のATP供給に深くかかわっているが、病態学的な意義としては、128番目のアルギニンがトリプトファンに変異することによって生じた溶血性貧血が知られているに過ぎない。しかし、細胞におけるATP産生その細胞の生死に密接に関与するだけに致命的な本酵素のDNAの変異は表現型として現れにくいことも考えられる。諸病態の分子論的解明に資する手がかりにとって基礎的な背景を探る目的で本研究を開始した。1)ヒトAK1DNAをさきの報告で人工合成して入手し得たpAKをpMEX8-hAK1へとベクター改築を行い、哺乳動物の間で相同性の高いリジン残基の7個所を対象に、それらに対するXXYコドン(X : A,G,C or T,Y : G or C)で構成されるアンニーリングプライマーを作製してランダムな部位特異的変異導入法の確立を計った。DNAサイクルシークエンスによって変異導入プラスミドのスクリーニングを行って、野生型および短時間に複数の変異型を大腸菌においてタンパク質発現を行い、それぞれの酵素タンパク質を2段階の操作で、精製し、比活性測定、定常状態でのキネティックス解析を行った。2)7つのリジン残基に関して、22種類の変異体が得られ、野生型と比較してタンパク質発現量、比活性値ともに著明に低下していた。K9はATP,AMPの両基質に、K21は両基質ともに相互作用を示し、ATPとの強い相互作用が観察された。K27,K131はATP基質のホールディングに関与するのみならず、そのリン酸転移に寄与していることが示唆された。K63もATPとの強い結合が示唆され、K194はC端に存在していながら、ATP,AMPの両基質とのホールディングにおいて相互作用する証拠が得られた。3)これらの結果を本結晶酵素で得られたX線回折のモデルに挿入してみると、溶液中で行われたNMRモデルを強く支持する酵素一基質相互作用を示す興味ある成果が得られた。
|