研究概要 |
トルエンの中枢神経系への影響を明らかにするために、トルエン曝露による脳内アミン類の変化をラットを用いて検討した。脳内アミン類の測定にはマイクロダイアリス法を用いた。トルエン曝露は脳の線条体内ドーパミンを増加することなく、行動量を増加した。これは脳内ドーパミンを増加することによって行動量が増加するアンフェタミン等とは作用機序が異なることを明らかにした。これらの結果は脳内アミン類が有機溶剤の中枢神経作用機序解明に有効な指標であることを示した。トルエン嗜癖者の脳の磁気共鳴映像法(MRI)を用いて経時的に観察し、トルエン吸入によって脳の萎縮と白質脳症が発生することを明らかにした。また、トルエン曝露を受けて働いていた労働者に軽度な白質脳症が認められた症例を見いだした。MRIがトルエン等の有機溶剤の中枢神経系への影響の作用機序解明に有効であり、MRIの所見は有機溶剤の中枢神経への影響の生物マーカーとして利用しうることを示した。末梢神経毒性を有することがよく知られているヘキサン及びその代謝物の毒性を培養したシュワン細胞を用いて研究し、2,5-ジメチルフランがシュワン細胞に対してもっとも毒性がつよいことを明らかにした。この結果はヘキサンの末梢神経毒性の原因物質は2,5-ヘキサンジオンしと考えられてきたが、2,5-ジメチルフランの関与も考慮する必要性を示した。さらに、我が国における神経毒性を有する有機溶剤等の工業化学物質の使用実態とそれらによる健康障害の広がり及びその予防対策の重要性を示した。
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