本研究では、損傷に伴う細胞死をapoptosisとnecrosisという2つの細胞死機構に基づき細胞生物学的に検討した。 新規に考案・作製した電子温度制御発熱装置を用い、ラット肝を37℃、50℃、65℃5分間、過熱し、損傷肝を作製した後、所定時間生存させた。これら損傷肝組織について、組織化学染色、TUNEL法によるapoptosis染色、抽出DNAの電気泳動等により損傷肝組織の細胞死を生存時間毎(経時的)に解析した。各々温度ともapoptosisの出現は経時的(生存時間に対して)二峰性を示した。 第一のapoptosisは、37℃では損傷部全域に認められた。しかし、50℃及び65℃では損傷の辺縁部から始まり、中心部に向かって進展し、HE染色において核の凝縮が損傷部と正常の境界領域に顕著であり、37℃の所見とは明らかな相違を示した。これは損傷辺縁におけるapoptosisが温度の直接的影響によることを示すものと考えられる。 第二のapoptosisも、いずれの温度においても、損傷の辺縁部から中心部に向かって進展し、その時間経過は、好中球の損傷部位への浸潤にほぼ同調していた。TUNEL法でapoptosisが著明な肝組織から抽出したDNAをアガロース電気泳動法により分析するとラダーが検出され生化学的にもapoptosisが確認された。 損傷組織におけるnecrosisは、時間的、部位的にもapoptosisとほぼ同様のパターンで出現し、受傷後10〜12時間(第二のapoptosisのピーク)まではnecrosisとapoptosisがほぼ同程度に認められた。しかし、24時間後にはapoptosisを起こした細胞は貧食により消失し、necrosisのみからなる損傷像となった。 損傷組織におけるapoptosisとnecrosisは、その出現パターンから好中球に由来するTNF-αの作用によるものと考えられ、実際損傷部位の好中球におけるTNF-αの産生が免疫電顕法により確認された。 以上のごとく本研究では、損傷における細胞死にはapoptosisが大きく関与することを細胞生物学的に明かにした。
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