我々の研究目的は(1)APRT遺伝子の体細胞突然変異細胞を検出し、その分子レベルの変異を明らかにすること(2)母親由来と父親由来のAPRT遺伝子の体細胞突然変異に違いがあるかどうかを明らかにすること(3)違いがあれば、そのメカニズムを明らかにすること(4)T細胞とB細胞におけるAPRT遺伝子座の突然変異の違いを明らかにすることであった。まず、我々はAPRT遺伝子の体細胞突然変異を多く分析した。そして、突然変異率が極めて低いヘテロ接合体を二人見いだした。通常のヘテロ接合体では突然変異細胞の頻度は1×10^<-4>程度であるが、この二人では0.2×10^<-4>程度であった。しかも、突然変異を分子生物学的に分析した結果、それらは通常のヘテロ接合体とは全く異なった体細胞突然変異の分布を示していた。即ち、通常は体細胞突然変異の約80%がloss of heterozygosity(LOH)なにのに、この二人ではLOHは全くなかった。LOHのない変異細胞にはこれまで我々は点突然変異を証明しているので、これらには点突然変異があるのであろう。なぜ、このように体細胞突然変異が正常とは異なっているかは現在検討中であるが、これがジャームライン遺伝子の違いによることはほぼ確実である。なぜなら、この二人こそ、我々がこれまで診断した100名以上のAPRT欠損の家系の中で、大きな分子変異のあった家系だからである。この二人には血縁はないが、種々の証拠から同じ突然変異をもっていると思われる。即ち、ジャームライン遺伝子が体細胞突然変異を規定している。これは母親由来、父親由来の違いによるのか、あるいはいままでに知られていないメカニズムによるのかを検討中である。また、目的の(4)はT細胞とB細胞の体細胞突然変異(APRT遺伝子座における)に違いが無いという結果がでた。これらの二つの結果はいずれも論文を投稿中である。
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