ヒトループス胃炎では陽性荷電抗DNA抗体が病態形成に重要な役割を果たしている。本研究ではヒト全身性エリテマトーデスを規定する原因遺伝子の同定を目的として陽性荷電抗DNA抗体産生を遺伝子レベルで解析した。まずループス腎炎患者陽性荷電抗DNA抗体の胚細胞型遺伝子の遺伝子クローニングを行い、非腎症型SLE患者および正常者と比較した。ループス腎炎で発症した患者"S"好中球DNAを用いてコスミドライブラリーを作製し、胚細胞型の陽性荷電抗DNA抗体軽鎖遺伝子(SG3)を含む約40kBpのコスミドクローンを同定した。このSG3領域をサブクローニング後遺伝子配列を決定した(約3kBp)。さらにその配列に基づいてPCR法を行い、ループス腎炎患者と非腎症型SLE患者ではSG3遺伝子の構造が異なっていることを明らかにした。非腎症型SLE患者ではSG3遺伝子がnonproductiveでり、ループス腎炎患者ではSG3遺伝子はproductiveであった。さらにSG3遺伝子は胚細胞型免疫グロブリン_K鎖遺伝子座の下流に存在するA30遺伝子であることが明らかになった。A30遺伝子が正常に存在するSLE患者では腎炎を発症し、A30遺伝子が欠落する患者では腎炎を発症しないことがわかり、A30遺伝子のループス腎炎発症における重要性が明らかになった。さらに正常者ではレセプターエデイテイングとよばれる機序でA30遺伝子の発現が抑制されているのに対し、SLE患者ではA30遺伝子のレセプターエデイテイング機構に異常があり自己抗体の産生されることが判明した。ここで得られた成績は、SLE患者のA30遺伝子を検討することでループス腎炎発症を予測できることを示し、将来的にはSLEの遺伝子診断につながることを示している。
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