(目的)前年までの研究において皮膚線維芽細胞を培養し、通常では見られない胎児型ミオシンのmRNAが、正常者と高K血症性四肢麻痺例の皮膚線維芽細胞に、TTX(+)NaチャンネルやTTX(-)NaチャンネルのmRNAが上記周期性四肢麻痺の皮膚線維芽細胞培養において見られた。今年度は前年に引き続きMyoD遺伝子を皮膚線維芽細胞に筋形質を発現させ、TTX(+)Naチャネルコード遺伝子変異を発現することを目的とした。 (方法)皮膚線維芽細胞にMyoD-DNAをtransfectする。昨年度の研究から経験したことであるが、成人から得た皮膚線維芽細胞は、transfection効率がこれまでの方法では低い。昨年までの実験でCap法、lipofectin法ともにtransfectionの効率が良いことが分かっているので、今回は、lipofectaminやelectroporationを用いる。transfectionが成功裏に行われたかどうかはtransfectionを行った細胞培養からmRNAを抽出しMyoDのmRNAが含まれているかどうかをRT-PCRで調べる。このためにMyoD配列を検討して、primerを設計する。Transfectionが成功裏に行われていればTTX(+)-、TTX(-)-NaチャンネルのmRNAを検出しTTX(+)-Naチャンネルに変異があるかどうかをTTX(+)-NaチャンネルのcDNAについて直接sequenceを行い、変異の発見につとめる。 (成績及び考察)患者から得た線維芽細胞には上記のどのような方法を用いても、mRNAで検出出来る様にはMyoDがtransfectされなかった。そこで方針を変更しtransfection効率の高い実験動物細胞をもちいて、変異したチャネル遺伝子の検出の効率化、MyoD transfectionの効率化、線維芽細胞の筋細胞への分化誘導の条件、を平行して再検討することにした。(1)分担研究者の岡村康司らはNaチャネルmRNAのRT-PCR法を改良することを検討し、TTX(-)-Naチャンネルを発現することが知られている原索動物ホヤ8細胞胚から作成した2細胞神経誘導系において、運動ニューロンの分化にともなうNaチャンネルmRNA検出の感度を上昇することに成功した。(2)また、分担研究者の高橋国太郎および研究協力者の田中資子らはtransfectionの効率を直視下で観察することを目的として機能を保持したチャネル蛋白とクラゲ蛍光蛋白(GFP)融合蛋白の作成を計画し、とくにチャネル蛋白とGFP蛋白のLinker部分のアミノ酸配列を最適化して、(1)に述べた2細胞神経誘導系を用い機能を保持したギャップ結合チャネルとGFP蛋白との融合蛋白の発現に成功した。(3)(2)の成功によって、さらに研究協力者の田中資子らはMyoD-GFP融合蛋白を作成し、transfectionの比較的容易なマウス皮膚線維芽細胞を用いて検討を行っている。以上により、本研究計画の研究成果により遺伝子変異による疾患について、患者より採取が比較的容易な細胞を分離培養し、これを形質転換して当該疾患に病因となりうる細胞種に変換、をの病態機序を解析することの重要性と可能性が明確となった。
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