本研究は、胃癌の前癌病変の一つであるとされている萎縮性胃炎の発生機序における、壁細胞の関与を明らかにしようとするものであり、本年度は、1)壁細胞欠失マウスの作成、2)壁細胞培養系の確立、をめざした。 1)抗壁細胞抗体による自己免疫機序により壁細胞減少をきたす、A型萎縮性胃炎のモデル動物を作成する目的で、壁細胞を特異的に消失させたトランスジェニックマウスを作成する。壁細胞のみを欠失の標的とするため、壁細胞特異的に発現している、H-K ATPase βサブユニットDNAのプロモーター部を用い、この下流に、細胞毒性を持つジフテリア毒素Aサブユニット蛋白のcDNAを配した導入用遺伝子を作成した。現在、この導入用遺伝子をマウスに導入中である。 2)胃粘膜は壁細胞をはじめ、主細胞、被蓋上皮細胞、内分泌細胞、繊維芽細胞など多種類の細胞からなり、純粋な壁細胞は未だに単離されていない。また高度に分化した細胞である壁細胞は初代培養系では急速に脱分化をきたす。萎縮性胃炎における壁細胞の役割を詳細に検討するためには、他の細胞の混入のない、高い分化度を保った細胞を用いる必要がある。この目的のため、上記H-K ATPase βサブユニットのプロモーター下に、温度感受性SV40 T抗原をコードするcDNAを配した導入用遺伝子を設計した。この遺伝子を導入したマウスの胃粘膜細胞を培養することにより、選択的に不死化した壁細胞が得られるはずであり、さらにこの細胞の培養温度を39度にすることによりSV40 T抗原は不活化され高分化度の細胞が得られるはずである。現在この導入遺伝子作成を終了し、マウスに導入中である。
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