研究概要 |
米国Genetic Therapy Inc.より供与された薬剤感受性遺伝子(ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子)を発現するレトロウイルスベクターを用い,5種のヒト肝癌細胞株(Huh-7,SK-Hep-1,HepG2,Hep3B,HLF)に対する遺伝子導入を行い、ネオマイシンで選択し、ウイルス感染細胞クローンを各々10個選んだ。In vitroの系において、ガンシクロビルに対する感受性を生細胞の脱水素酵素活性を測定する細胞増殖比色法により検討した。その結果,コントロールとしたNIH3T3細胞に比し20〜100倍遺伝子導入効率は低いものの,すべての細胞株への遺伝子導入が可能であった。50のウイルス感染クローンで検討したガンシクロビルに対する感受性は、細胞数4x10^3/well、ガンシクロビル濃度10-100μg/ml、ガンシクロビル添加培養日数5-12日において最大であり、その死亡率は薬剤量に依存し、またHep3Bの1クローンを除き全て薬剤感受性を示した。なお、ガンシクロビル100μg/ml以下の濃度ではレトロウイルスの感染していない肝癌細胞に殆ど影響を及ぼさなかった。さらに,Huh-7の1クローンと薬剤感受性遺伝子の導入されていないHuh-7細胞との混合培養で,薬剤感受性を検討した結果,遺伝子が導入されていない癌細胞も死滅することが明らかとなった(Bystander effect)。同様の効果はHepG2のクローンでも認められた。また,薬剤感受性遺伝子を導入したHuh-7細胞をヌードマウスに接種し,ガンシクロビルを投与した結果,腫瘍の縮小が認められた。今年度の成果としてレトロウイルスベクターでは導入効率が低いものの、遺伝子治療が可能であることが示された。平成8年度はより導入効率の良いとされるアデノウイルスベクターを用いて同様の実験を行うと共に、動物実験を重ねて、安全性、有効性を確立させる予定である。
|