研究概要 |
慢性胃潰瘍の実験モデルであるラット酢酸潰瘍を用いて、その治癒過程におけるTGF-βlおよび各種細胞外マトリックスのmRNA発現および免疫組織学的手法によるその局在を検討した。1.TGF-βlのmRNAの発現は潰瘍作成3日目から増加し、5日目と18日目にピークを形成し、60日目には元のレベルに戻った。2.基底膜構成成分であるコラーゲン4とラミニン、間質の主成分であるコラーゲン1、フィブロネクチンのいずれのmRNAの変動ともTGF-βlの動態とほぼ一致していた。3.TGF-βlの局在は、潰瘍治癒早期には潰瘍底部のマクロファージに、後期には肉芽組織内の筋繊維芽細胞に主として認められた。4.潰瘍治癒を促進させるプロスタグランジン製剤により潰瘍部TGF-βlmRNAの発現は亢進し、逆に治癒遅延作用を発揮するインドメサシンによりTGF-βlmRNAの発現は低下した。5.正常成体では癌組織などの特殊な組織・状態においてのみ出現する細胞外マトリックスであるテネーシン(TN)のmRNAは、ラット酢酸潰瘍作成6時間後に既に発現し12時間目と5日目にピークを形成し、その後速やかに減少した。6.最初のピークである12時間目では、TNは潰瘍辺縁の被蓋上皮欠損部の残存腺管先端に局在していた。また、5日目では潰瘍辺縁の再生腺管先進部にTNは限局していたが7日目には消失し、同部位は基底膜成分であるフィブロネクチン、コラーゲン4により置き換わっていた。7.TNと同様の胎児性細胞外マトリックスであるフィブロネクチンE〓A,E〓BのmRNAも潰瘍治癒過程早期に増加を認めた。 以上のことから、TGF-βlは細胞外マトリックス産生刺激を介して潰瘍治癒に大きな役割を果たしていると考えられた。また、癌組織などで見られる特殊な細胞外マトリックスであるTN、フィブロネクチンE〓A,E〓Bも、胃潰瘍治癒過程早期に出現し、重要な役割を果している可能性が示唆された。
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