研究概要 |
ピペコリン酸は肝不全時に血漿中で増加し、血中アンモニア濃度と相関することを明らかにしてきた。またピペコリン酸は、γ-アミノ酪酸(GABA)受容体のアゴニストと言われており、肝性脳症発症との関連が示唆されている。申請者は上記の事項を踏まえて震災復旧後の平成7年9月より実験を再開しており、今回以下のような検討を行うことができた。 1.血漿D-、L-ピペコリン酸の測定 以前より高速液体クロマトグラフィによる血漿ピペコリン酸のD-、L-体の分離、定量を試みているが、これまではD-体のピークに血漿中の未知物質のそれが重なり十分な分離ができなかった。しかしながら血漿サンプルの前処理法や、測定システムにおいては溶離液の組成変更、pHの調整など複数の項目にわたり再考した結果、漸く正確な分離、定量が可能となった。正常人15例においては血漿総ピペコリン酸濃度1.04±0.40nmol/ml、そのうちD-体の比率は10.21±11.02%、肝硬変患者15例においては同様に2.63±1.20nmol/ml、39,90±9.35%であった。 2.肝性脳症患者の血漿ピペコリン酸の解析 GABA受容体のアゴニストとしての作用はD-ピペコリン酸のほうが強いと言われているが、肝性脳症発症患者においてはD-、L-体の比率がどのようになっているのか検討した。肝性脳症の既往のある患者20例において、脳症発症時と非発症時について各々血漿ピペコリン酸、D-、L-体の分離を行った。それによると、発症時ピペコリン酸濃度4.52±2,91nmol/ml、D-体の比率は38.92±7.42%、非発症時ピペコリン酸濃度3.20±1.63nmol/mlD-体の比率は37.99±8.45%であった。このように正常人に比しD-ピペコリン酸の比率は有意に増加していることが示されるが、これが脳症発症の誘因となりうるのか、また増加したD-ピペコリン酸の由来についてはさらなる検討が必要と思われる。従って現在D-、L-ピペコリン酸の起源を知るべくリシン経口負荷試験などの実験を計画し、遂行中である。
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