研究概要 |
1)高地運動トレーニングと心肺機能 a)高地適応チベット族および移住してきた漢族の運動時の酸素摂取能力を比較し、高地に適応しているチベット族の最大酸素摂取量最大運動量および最大換気量は高値を示した。また、Anaerobic threshhold(Vo2AT)も同様にチベット族が高値であった。高地に適応しているチベット族は酸素摂取能力と有気的運動能力が高いことが示された。b)標高3,417mおよび4,300mの地域に居住する高地に適応しているチベット族とその地域に移住してきた漢族の小児(平均年齢14歳)の運動能力を検討した。両方の地点で、チベット族の肺活量、最大換気量、最大酸素摂取量は、高値を示した。これらの研究結果より、高地の適応しているチベット族の最大運動量、酸素摂取量、有気的運動能が高値であることが示され、これらは、高地トレーニングの有効性を示唆する所見である。 2)低地居住者の高地での運動負荷と心肺機能 低地居住者が急速に高地に移動した際に生ずる運動適応不全が、急性高山病であり、その最重症型が高地肺水腫である。今回の研究においてa)高地肺水腫既往者では、低酸素性肺血管収縮反応が、健常対照群に比し、有意に亢進し、その機序にEndothelin-1の関与は認められなかった。b)高地肺水腫患者の入院時の気管支肺胞洗浄液を解析し、入院時、IL1-beta,IL-6,IL-8,TNF-alphaは、回復時に比し、著しく高値であった。本症の発症機序に、サイトカインおよび接着分子の関与が示唆された。c)Tc-MAA肺血流シンチグラフィにて低酸素負荷時の肺血流動態を検討した。室内気吸入下および10%酸素吸入負荷時の肺血流分布の変動を評価した。高地肺水腫既往者では、低酸素性肺血管収縮反応がより亢進し、その結果、血流が上肺部にシフトしたと考えられた。d)高地肺水腫既往者30例および健常人100例を対照群として、HLAを検索した。DR-6陽性者は、既往者群では48%であり、対照群の100例中16例(16%)に比し、出現頻度が有意に高かった(p<0.025)。本症の発症にHLA-DR6の関与が示唆された。
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