研究概要 |
抗原特異的cytotoxic T lymphocyte(CTL)の誘導に抗原提示細胞、Tリンパ球の間にMHC-抗原-TCRを介するシグナルに加えco-stimulatory分子を介するシグナルが必要であることが明らかになっている。この現象を基に腫瘍細胞へco-stimulatory分子遺伝子導入を行い腫瘍特異的CTLの誘導の可能性を検討する目的でco-stimulatory分子(B7,B70,ICAM-I)遺伝子導入のために2種類のプロモーターcytomegalovirus immeadiate early promoter(CMV)、アデノウイルス5型major late promoter(MLP)をそれぞれ使った非増殖性アデノウイルスベクターを相同性組換えにより作成した。非増殖性アデノウイルスベクターを用いた腫瘍細胞への遺伝子導入効率を評価するためにリポーター遺伝子E.coliLacZ遺伝子(β-galactosidase:β-galをコード)を組み込んだ非増殖性アデノウイルスベクターを作成し、腫瘍細胞へ1,10,40multiplicity of infection(MOI)で感染させた標的細胞で発現したβ-gal活性の検討を行った。悪性黒色腫細胞株SK-me15,SK-mel28,肺癌細胞株A549,PC14,肺癌患者手術検体より得られた肺腺癌細胞のような接着性細胞では10MOIで90%以上のβ-gal活性が認められた。一方肺小細胞癌細胞株のような非接着性細胞では同じ10MOIで10-20%のβ-gal活性にとどまった。この結果はアデノウイルスの感染に必要な標的細胞のインテグリンの発現が非接着細胞では少ないことと関連していることが推測された。10MOIで腫瘍細胞へB7,B70,ICAM-Iの遺伝子導入した場合、CMVプロモーターを用いた方がMLPプロモーターでdriveした場合に比較して10^2倍導入遺伝子発現が強いことがmRNAレベル,抗B7,抗B70,抗ICAM-I抗体を使ったflowcytometry解析で明かとなった。また、導入遺伝子の経時的発現の変化は、mRNAレベル、蛋白レベルともに遺伝子導入後24時間目から認められ48時間から96時間で最高となり以後徐々に減衰しながら少なくとも2週間目まで確認された.以上の結果より非増殖性アデノウイルスベクターを利用することが肺癌患者より得られた比較的増殖速度の遅い癌細胞でも遺伝子導入後、24時間で導入遺伝子の発現が得られることから、比較的短時間の培養でCTLを誘導できる可能性が示唆された。平成8年度はこれらの結果をもとにautologous CTLやallogenic CTLの誘導の可能性を検討する。
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