研究概要 |
抗原特異的CTLの誘導には、抗原を提示しているMHCとT細胞受容体の結合によるシグナル以外にco-stimulatory分子のCD80(B7-1)或いはCD86(B7-2)分子とT細胞上のCD28分子の結合による第2のシグナルが必要である。しかし、腫瘍細胞はB7-1或いはB7-2の発現は欠如しており、たとえ腫瘍細胞上に抗原が呈示されていたとしても免疫学的不応答になる可能性が推測されている。そこで本研究では、遺伝子導入効率の優れているアデノウイルスベクターを使ってco-stimulatory分子を腫瘍細胞へ遺伝子導入し腫瘍特異的CTLが誘導されるか検討し、養子免疫療法への応用の可能性についても検討した。本研究により明らかとなった点について以下にしめす。1).co-stimulatory分子遺伝子ヒトB7-1 cDNA、B7-2)cDNA,ICAM-I cDNAをcytomegalovirus(CMV)promoter,アデノウイルス5型major late promoter(MLP)でdriveするそれぞれ2組のアデノウイルスベクターを作成した。またE.coli lacZ遺伝子をCMV promoterを使って発現するアデノウイルスベクターを2種類作成した。これらはSV40核移行シグナルをもたないAdCMVLacZと核移行シグナルをもつAdCMVnLaczである。コントロールアデノウイルスとして全く外来遺伝子を発現しないAdNullを作成した。2).アデノウイルスベクターを用いて肺癌細胞への遺伝子導入は正常気道上皮細胞に比し優れていることが示唆された。3).co-stimulatory分子遺伝子導入後の肺癌細胞におけるco-stimulatory分子発現はMLPとCMVプロモーターで比較した場合CMVの方が100倍以上高いことが示された。4).アデノウイルスベクターを使ったB7-1,B7-2分子遺伝子導入後5日間でメラノーマ細胞、肺癌細胞にたいする腫瘍特異的CTLの誘導の可能性がしめされた。メラノーマ細胞にたいするCTLはE/T40で平均60%の抗腫瘍活性をしめしたが肺癌の場合は平均45%で最大62%であった。また、誘導されたCTLは親株以外の腫瘍細胞には抗腫瘍活性を示さず腫瘍特異的であることが示唆された。更にIL12添加により抗腫瘍活性が10%高まった。5).CTLの抗腫瘍活性は最低15%から最大62%と幅をもっている。γ-インターフェロン添加においても抗腫瘍活性に変化はないことから腫瘍よりTGF βのようなリンパ球抑制因子の分泌により抗腫瘍活性が低下している可能性が考えられた。6).co-stimulatory分子の一つであるICAM-IについてはCTLは誘導されず、アデノウイルスベクター自体の感染でICAM-Iの発現が増強した。遺伝子導入後7日以内で比較的容易に腫瘍特的CTLが誘導可能なことは養子免疫療法の可能性を示唆する。更に養子免疫療法とすることでアデノウイルスベクターのin vivo遺伝子導入の欠点とされる免疫反応を克服できる点でもその応用が期待される。
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