研究概要 |
【目的】:肺胞を場とする呼吸器疾患、肺気腫、肺線維症の発生機序の詳細は不明である。本研究は万人が暴露されうる環境汚染物質、喫煙が肺の線維化、気腫化の発症機構を病変の場である肺胞壁に特異的に存在する肺胞II型上皮細胞に焦点をあて、その組織障害のい機序を解明することを目的とした。【実験結果】:1)対象実験動物の変更:Sprague-Dowley(SD)ラットは大型で現在の喫煙装置での喫煙実験が不可能であった。より小型のWister系とSDラットのII型肺胞上皮細胞の機能に差異があるかを、サーファクタント分泌能の立場から比較検討した。その結果両系の分離II型肺胞上皮細胞に対するPMA、ATP、Terubutarinの刺激に対しWister系ラットはSDラットと同様の分泌能を示し、この系の実験は以後Wister系ラットを用いて行った。2)各種サイトカインによるII型肺胞上皮細胞の増殖能に対する検討:分離した培養II型肺胞上皮に対する各種サイトカインの増殖能を、3Hthymidine(3H Thd)の取り込みにより検討した。HGF,KGF,1L-1βは明かにII型肺胞上皮による3H thymidineの取り込みを増強し、その増殖能はHGFが最も大であった。1L-2,1L-6,1L-8,GM-CSFはいずれもコントロールに比しII型上皮細胞の増殖を抑制したが、これらはHGFの増殖活性にはなんら影響を与えなかった。むしろ、1L-2,1L-6はHGF単独よりもその増殖活性を増強する傾向が示された。また、EGF,TNF-αは培養II型肺胞上皮の増殖活性になんら影響を与えなかった。3)肺組織障害モデルにおける活性酸素産生に関する検討:われわれが既に発表したビタミンE欠乏プレオマイシン投与肺気腫モデル(Lung. 166:161-176,1988)において肺組織障害の急性期では活性酸素産生能が約2.5倍に増大するが、SOD活性は1.3倍増加するに過ぎず、過剰産生された活性酸素が肺組織の脂質過酸化を増強することが知られた。【今後の方針】:肺組織障害発生初期の産生活性酸素種と産生するサイトカイン、II型肺胞上皮に発現するサイトカイン受容体の関係を明かにする。
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