研究概要 |
グルココルチコイド受容体(GR)は海馬で高頻度に発現されており、ストレス時、グルココルチコイドに反応してストレスに対する種々の細胞内活性化を収束させる。しかしグルココルチコイドの慢性的な上昇はGRを介して神経細胞障害を引き起こす。このためGRは慢性的なストレスや加齢に対してdown regulateされ細胞障害を回避していると考えられている。性ホルモン濃度、あるいは性ホルモン投与と認知機能との関連を示す報告がある。老化に伴う知的機能低下を理解する上で、脳内特に海馬の上記ホルモン受容体の検討は重要と考えられる。われわれは剖検脳15例(30歳〜90歳)を用い海馬CA1,CA2,CA3,hilus各部位のGR,甲状腺ホルモン受容体(TR),アンドロゲン受容体(AR),エストロゲン受容体(ER)mRNAの発現をin situ hybridization法で検出し、部位間の比較,加齢による変化を検討した。65歳以下の症例では海馬神経細胞の80%以上に各受容体mRNAが検出された。各受容体mRNA発現神経細胞の総神経細胞数に対する比率(%)のうち、加齢により有意(p<0.05)な低下を示した部位は、GRについてCA1,CA3,ARについてCA1であった。有意ではないが低下傾向(p<0.1)を示した部位はGRについてhilus、ERについてCA1であった。加齢に伴う海馬各部位における核内受容体mRNA発現の低下は、老年者にみられる認知機能や情動反応の低下と関連が有るのかもしれない。
|