研究概要 |
線状体から視床へ至る出力にはGABA/substancePを伝達物質とするdirect pathwayとGABA/enkephalinを伝達物質とするindirect pathwayの二者があり両者の拮抗的バランスが運動の調節に重要である。direct pathway,indirect pathwayのどちらかの出力が相対的優位となった場合それぞれhypokinesia,hyperkinesiaを来す。両者はそれぞれD_1,D_2受容体を優位に発現し黒質ドーパミンニューロンの調節を受ける。本年は,老年者や多発性脳梗塞患者に見られるhypokineticな運動障害の原因を検討するため、剖検脳被殻のD_1,D_2受容体mRNA発現を定量的rt-PCR法により測定し、その加齢変化の検討と正常例と被殻ラクネ例の比較を行った。正常例では加齢に伴いD_2受容体mRNAが低下したが,D_1受容体mRNAには変化がみられなかった。この結果は加齢にともない黒質ドーパミンニューロンからindirect pathwayへの抑制性調節が減少する可能性を示しており、老年者にみられるhypokineticな運動障害に関連している可能性がある。黒質ドーパミンニューロンは加齢により減少することが知られている。両受容体mRNA量の加齢変化に差が見られたことはドーパミンニューロンからの入力減少に伴うregurationの機構がD1,D2では異なる可能性を示唆している。一方、被殻ラクネ梗塞例ではD_1,D_2受容体mRNAはいずれも正常例に比しに低値を示したが低下の程度はD2受容体においてより著しかった。この結果も被殻梗塞例ではパーキンソニズムを来しやすいことに関連している可能性がある。また虚血状態における受容体発現のreguration機構がD1,D2受容体では異なる可能性も示唆している。
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