研究概要 |
目的)アポ蛋白E(apoE)-ε4 alleleはアルツハイマー病(AD)の危険因子である.apoE遺伝子頻度はこれまで臨床例で求められているが,ε4 alleleをADの診断へ役立たせようとするするには病理解剖例のデータを用いて特異性と感受性を検討する必要がある.この目的のために我々はホルマリン固定脳切片よりDNAを抽出し解析している.しかし昨年度の報告ではホルマリン固定脳切片からapoE遺伝子型を決定することが極めて困難であることを報告した.本年度は種々の段階で技術的な改善を行いながら検討症例数を増やした. 方法)Dホルマリン固定10μ厚の脳切片5枚を抽出溶液(Chelex 100 20%,Tween 20 2.5%,Nonidet P40 0.25%,SDS 0.1%)を用いてDNAを抽出する.DNAを用いてapoEのエクソン4をPCRにて増幅するが、この際2組のプライマーを作成しnested PCRをかけることと,Taq polymeraseとして加熱によって活性化するTaq Gold(Perkin Elmer)を用いた.得られたPCR産物を制限酵素Hha Iにて切断してapoE遺伝子型を決定する. 結果)対象はAD10例(51-79y.o.),対照33例(66-99y.o.)の合計43例.34例(79.1%)でPCR産物が増幅された.PCR産物の塩基配列をdirect sequenceにて検討したところ正確に増幅されていた.対照ではE4/3,E3/3,E3/2が各1(4.2%),19(79.2%),4(16.7%)であったが,ADではE4/3,E3/3が各2(20%),8(80%)とADではE4/3の比率が高かった.対照の中で85歳以上の超高齢者ではE4保持者は存在せず,E3/2の比率が20%と高かった 考察)従来ホリマリン固定材料を用いたPCRの増幅では成功率は60%程度とされ,ポルマリン固定の時間やバッファーが関係するとされているが我々の方法を用いると極めて高率に,正確に増幅されることが示された.しかし,制限酵素後の判定にまだ問題を残している.ADではE4/3E4/3の比率が高かったが,これまで報告されている数値(50-60%)より低かったのは,今回の調査ADの年齢が比較的高齢であることが関係していると思われる.また超高齢者ではE3/2の比率が高い点はE2がADの防御因子であることを支持する.
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