研究概要 |
強力な心肥大作用のあるノルアドレナリン(NA)は,心筋細胞のα1及びβ受容体に結合後,それぞれPKC,PKAを活性化し心肥大を惹起すると考えられるが,その詳細は不明である。また,心筋細胞以外の細胞では,活性化したPKAは,PKCとは逆に,Raf-1キナーゼ(Raf-1)/MAPキナーゼ(MAPK)カスケードを制御し,細胞の増殖分化を抑制する。このことは,心筋細胞独自の細胞内情報伝達経路を示唆している。そこで,心筋細胞におけるNAの細胞内情報伝達経路を解析し,その特異性を明らかにした。ラット新生仔培養心筋細胞にNA刺激を加え,Raf-1,MAPK活性を解析した。また,実際の心肥大の指標としてフェニルアラニンの取り込みを解析した。さらにα1及びβ受容体の阻害薬プラゾシン,プロプラノロールで前処置後NA刺激を行い,同様に解析した。その結果,Raf-1,MAPKが,それぞれNA刺激2分,8分をピークに一過性に活性化し,24時間後のフェニルアラニンの取り込みも1.95倍に上昇した。さらに,受容体阻害薬による前処置実験から,NAはα1及びβ受容体の両者を介して心肥大のシグナルを伝達し,NAのα1またはβ受容体単独刺激では,NAによる心肥大シグナル全体の26〜46%,25〜37%に過ぎなかった。また,α1及びβ受容体の特異的刺激薬フェニレフリン,イソプロテレノール刺激でMAPK活性がそれぞれ約3.5倍,3.0倍,両者の併用で約9.0倍に上昇した。以上より,NAによる心筋細胞肥大の情報伝達経路にはα1及びβ受容体の両者が関係し,そのいずれもRaf-1/MAPKカスケードを活性化させ,さらに,両受容体を介したシグナルが相乗的に作用して肥大を引き起こすことが判明した。このことは,複数の情報伝達経路のクロストークの存在を示している。また,β受容体→PKA→Raf-1/MAPK→心肥大は,心筋細胞特異的な細胞内情報伝達経路である。
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